栗山千明さん応援blog「GO!GO!C.K」(β版)

女優栗山千明さんの話題中心独善的blog。Thank you for access. This is the personal blog that assists in actress C.K(Chiaki kuriyama). This blog is Japanese version only . Since 2004.2.26

新春特別企画!「六番目の小夜子」外伝『忘れないから…』その4

踏切を渡って右に曲がる。

刹那。

「沙世子!」

耳の奥がじーんと痺れ、一瞬にして時が逆行した。

砂時計の上下が入れ替わる。

(ドンナニハナレタッテ、ドンナニアワナクナッタッテ、ズット、ズットオボエテルカラ!)

十二月の木枯らし吹く朝。

私はこの街を去った。

みんなと別れるのがつらくて何も言わずに行こうとしたのに、雅子ったら追いかけてきて・・。

雅子?

あれは本当に雅子だったの?

(ズットズットイッショダトオモッテタノニ・・)

(新学期になったら、私の座ってた椅子には誰かが座るわ。私なんかいなくても何も変わらない)

あの時の私の精一杯の強がり。

(亡霊と一緒。消えたらそれでおしまい・・・)

(ボウレイナンカジャナイヨ・・。コンナニアッタカイノニ・・。)

ふいに思い出す、あの時の彼女のぬくもり。

流した涙の暖かさ。

瞳の蒼。

彼女の名前は・・そう!!

「玲!!」

くるりと振り向く。

走る。

肩からかけたバッグが振り落とされそうになる。

息が切れる。

最近スポーツジムに通わなかった罰だと苦笑し、それでも全力で足を動かす。

坂の上。

私達が通った中学。

校門の扉が音もなく開く。

走り込む。

そして・・友情の碑の前に佇むのは・・制服姿の女生徒!

「玲!」

後ろから両肩に飛びつき、抱きつき、髪にほおずりをする。

「だぁめだよぉ!沙世子。思い出しちゃあ・・。沙世子だって大人になったんだもん。」

思い出したよ・・その不満そうな声も、ちょっと上を向いたその鼻も、綺麗な形の良い口も、ポチャッとしたかわいいほっぺたも!

潮田玲!

私のこの学校で初めての友達。

一緒に六番目のサヨコになった事。

いっぱい邪魔されて、いっぱい振り回されて、それでもすごく楽しかった事、怖かった事、ドキドキした事。

そういう時いつも、あなたと一緒だった事も・・・。

みんなみんな、たった今、思い出したよ!

「駄目だよぉ・・沙世子。思い出しちゃあ・・。私の存在価値、無くなっちゃうじゃないかぁ・・。ま、ちょっと嬉しいけど・・。」

振り向いた玲の顔。

昔のまま。

涙でくしゃくしゃになってた・・。

「私はね。この学校に住み着いてるの。この学校に通うみんなの想いが集まって・・で、お父さんもお母さんも弟の耕もみんないるんだけど、みんな嘘。みんながこの中学卒業すると同時に忘れちゃうんだよ。だから、まぁも溝口もカトも黒川先生も、秋でさえも憶えてないの。みんながちゃんと大人の扉を開けられたら私は・・嬉しいんだ。それで良いんだ。」

「でも、沙世子に久しぶりに会っちゃったら・・我慢出来なくて・・つい声かけちゃった・・。ごめんね。」

ぐしゅっと鼻をかみながら玲があやまる。

「謝ることない!嬉しかったよ!とっても、とっても!」

「私、落ち込んでたの。みんなから忘れられる事が怖くて、寂しくて、つらくて・・。玲と話せたら、なんか元気になっちゃった。ありがとう・・玲。」

「むふ・・。ビタミン剤みたいなもの?私って。『亡霊みたいなもの』って言った人がいたなぁ・・昔。」

「あぁぁずるいぃ!ダメだよ、私の台詞取っちゃ!」

ほんのりと笑い合う。

不思議な程、今までの不安や喪失感は消えていた。

昔のままの玲。

けれど、今も私のトモダチ・・。

「昔みたいにゴール合戦しよっか?」

ふいに玲が言い出す。

「え~!フェアじゃないよぉ。もう体動かないよぉ。」

「いっから、いっから・・」

驚いた事に体育館はバスケ部の初練習の真っ最中だった。

さらに驚いた事には・・。

「あら?!沙世子?」

先程別れた雅子がジャージ姿で立っていたのだ。

「まぁは今臨時のコーチなの。だけど私のこと憶えてないから・・ね?」

悪戯っぽく後ろから玲がささやく。

いつの間にやらユニフォーム姿になって、ちゃっかり私の分までバッシュの用意までしている。

「もおぉ・・」

半分あきれながら、半分感謝しながら私は玲と視線を交わし合う。

「潮田さん遅い!新年早々遅刻?」

「花宮コーチ!この人とそこで会ってて、練習に参加したいって・・。先輩だそうですけど・・」

私は扉を再び開く事が出来たのだろうか?

雅子に走り寄る玲を見つめながら、ふとそんな想いが頭をよぎった。

(おしまい)